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株式会社 栃本天海堂

2008年 中国生薬市場の展望

はじめに

 2007年は生薬市場にとって大きな転換期を迎えたと言えます。第一は食品衛生法の改定に伴う、残留農薬「ポジティブリスト制」の導入、第二は農産物の価格上昇及び中国人民元の切上、第三は野生種の資源枯渇の表面化などが上げられます。
 2008年はこれらの状況が続き、生薬の安定供給に対する不安及び生薬価格の上昇に伴う生薬薬価との逆ザヤなどが大きな問題になる事が予想されます。

I.生薬の安全性:「ポジティブリスト制」の導入
 「ポジティブリスト制」は各農産物に残留するの農薬名と基準が決められており、基準が決められていない農薬に関しても、一律基準として0.01ppm以下に規制されています。2007年1月から11月までに中国から輸入された食品の「しょうが」が農薬BHCの基準の0.01ppmをオーバーした為、34件も食品衛生法違反で積戻し、破棄などの処分を受けています。また、「はとむぎ」からもカビ毒のアフラトキシンが検出され14件の積戻しが行われました。

 薬用の生薬では日本薬局方で14品目にDDTとBHCの2農薬に0.2ppm以下の規制が有ります。
その他の農薬には規制がありませんが、弊社としましては安全性の確保を考えれば、医薬品、食品にも使用可能な原料手配が必要となり、原産地の生産状況の確認や把握、残留農薬の管理など今まで以上に厳格な管理が求められ、容易に原料手配が出来ないのが現状です。

II.農産物の価格上昇
  2007年は石油を筆頭に天然鉱石、農産物を含め多くの一次産品の価格が上りました。特殊農産物である生薬も例外では無く、どの生産国においても総ての価格が上っています。特に生薬の主供給国である中国においては、2003年の穀類生産量の落ち込みにより、穀類の生産に補助金制度を導入し、生産量の向上を計った結果、2006年は1999年度に近い生産量に回復いたしました。
 しかし、中国の経済発展に伴い農村部の人口は1995年から減り続け、農村部人口比率は大幅に下がり都市部の人口比率が増大しており、農村部の負担が大きくなり農産物の価格を押し上げています。特殊農産物である生薬も同じく全般に値上がり傾向にあり、低価格である生薬は栽培意欲を低下させています。

III.天然生薬資源の枯渇
 近年、生薬資源の枯渇は色々な方面から警鐘されてきましたが、2007年は現実味が帯びてきており、多くの生薬の供給不安が現れてきています。甘草は年々品質が低下しており、調剤用に用いられてきた乙~丙級(2~3級)は産出量が激減し、その上良質な甘草は非常に少なくなっています。
 冬虫夏草に至っては2002年の中国輸出数量600kgから2006年の6,159kgまで急増し、2007年は資源が枯渇、激減し、原産地の価格は100万円/kg以上に高騰しています。この価格は日本市場では受け入れられませんが、中国の経済発展で高額所得者が増え、中国市場では問題なく流通している様子で、中国国内において消費されています。

 これら以外でも野生種の生薬である蒼朮、和白朮、猪苓、黄 、縮砂、真防風、唐柴胡、野紫根なども資源が枯渇あるいはそれに近い状況にあり、価格は上昇しています。品質面も含め十分な供給が確保できるかが今後の大きな課題です。

IV.2008年は波動の年
 中国の現状は「退耕還林」、「禁採禁掘」などの環境保護政策が日増しに厳しくなり、また、一方で穀類作物などの激励対策により、農産物の価格上昇を招いている現状では、生薬の安定供給、安定価格、安定品質は望むべきも無い状態であります。
 多くの生薬原料の取扱い業者は、過去十数年の販売価格の低迷、収益の低下などで原料在庫の圧縮を計ってきた為、市場在庫は非常に希薄で少しの市場変化に対しても緩衝能力が無いのが現状です。品薄、価格急騰などの市場変化で、波の様に相場が乱高下する事も起こりえる2008年であろうと容易に推測できます。
 特に野生種に依存している生薬は供給不足を起こすと現状では代替の商品が無く、価格は前述の冬虫夏草の様に制限無く高騰する事も考えられ、早急な栽培化は急務でありますが、それ以外に安定供給を考えれば生薬栽培の国内生産の拡充も真剣に検討しなければなりません。
 中国の経済発展による所得増大は中国国内の生薬消費も拡大を続けており、国産が主流であった「サフラン」が中国での栽培を拡大した事により、安価な中国産に押され国産の生産は減少の一途をたどり中国産の依存度が増大しましたが、2007年度産の中国産は国産サフランより高値の相場になっています。この事は他国に生産依存度を高めた時の危険性を警鐘していると言えるでしょう。

 安全性の確保、供給の不安、生産地の物価上昇などは確実に生薬の価格に影響し、人民元の切上は輸入生薬の原価高につながり生薬の市場価格は確実に上昇します。生薬市場関係者は安値、安定の市場から価格、供給の不安定な時期に入った事を認識する事が重要です。