漢方・漢方薬の輸入、栽培、製造、販売までを一貫して行うメーカーです。

株式会社 栃本天海堂

2014年 生薬市場の展望 ―悪貨、良貨を駆逐する年?―

はじめに

 2013年に日本市場に流通した中国産生薬は2012年の高値が継続され、品質も決して良品とは言えない生薬が多く見受けられました。これは生産量の減少と価格高騰が主な原因であり、特に野生品種に関しては資源枯渇、採集規制などが大きく影響しています。生薬の特性ではありますが、生産が減少すると、価格が高騰し、劣等な品質であっても市場は受け入れ流通することで優良な品質の流通が減少する現象がおこります。また、2014年は生薬薬価の改定 の年であり、薬価は公定価格であり、流通市場の品質に大きく関与する事から、その動向に生薬市場は注目しています。

2014年注目される生薬

*薬用人参
 2013年の新産期に最も値上りした生薬は薬用人参です。中国産人参の平均的な輸出価格は130$/kgまで急騰しています。中国における薬用人参栽培は中国東北部(吉林省、黒竜江省)の原野を政府から借り受け、人参を栽培した後、植林をして返還する方式をとっています。
地方政府は環境保全政策で借地面積を抑制している事もあり、この借地料が年々値上りしています。また人参栽培は現在の価格水準では非常に収益性の高い作物ですが、栽培年数が長く、投下資金やリスクが大きく、また年々減少する借地に絡む利権汚職も多く取り沙汰されています。現在、中国の人参栽培地は一種のバブル経済になっており、多くの資金が人参栽培に投入されています。現在の価格水準が維持されなければ、銀行は多くの不良債権を抱え込む事になり、地方経済は大混乱になる可能性も考えられます。
 これらの背景を考えると、薬用人参の現在の価格水準は当分継続されると予想されます。
日本市場ではK製薬から医療用紅参末の供給が価格的に出来ないということで撤退の案内が出されています。

*防風
 防風は内蒙古の草原などに自生する野生品種の採集でまかなわれてきた生薬です。資源の枯渇が急激に進み価格が暴騰しており、一部栽培化も進んでいる生薬です。2013年11月に中国のテレビCCTV1ネットワークニュース(焦点訪談)で、野生防風・柴胡の収穫が草原に与えるダメージについて大きく報道されました。多くの農民の乱穫で草原が穴だらけになり砂漠化が進んでいるとの内容で、益々野生資源の採集が規制される事は間違いありません。
2014年から2015年にかけて野生の防風は市場から消える事が予想されます。野生防風は順次、栽培品種に移行されるでしょうが、栽培防風の品質が確立されておらず、栽培年数が1年から5年など色々な品質の栽培防風が市場に出回る事が予想されます。価格的な優位性で品質面が軽視される事が危惧されています。

生薬市場におよぼす生薬薬価の影響

 2011年からの中国産生薬の急激な値上りで、調剤用の医療用生薬は製造コストが薬価より割高になる逆ザヤの生薬が増加してきました。数社の生薬メーカーは薬価販売から撤退しており、薬価販売を継続しているメーカーも一部では品質基準を下方に見直し、低品質、低価格品で対応しています。2013年は@¥90/$から@¥103/$の円安で更なる原料価格高が進み、2014年の薬価改定で適正な薬価に引き上げられなければ、前述の紅参末のように薬価販 売から撤退するメーカーが増加する事が予想されます。漢方薬の原点である煎剤は、生薬を個々の症状により加減方で処方を組み立てるオーダーメイドの漢方薬です。漢方エキス製剤は簡便ですが効果が出難い、或いは効果が期待できない患者様には特に生薬の煎剤が求められ、保険診療には欠かせない治療方法ですが、薬価改定の結果次第では保険診療ができない状況になる事も考えられます。
 また、薬価の抑制によって流通生薬の品質の低下が懸念されています。新薬はその有効成分の力価で品質をはかりますが、生薬は多成分医薬品でありその品質評価は容易ではありません。また公定書の日本薬局方の規格は最低限の基準を定めており、有効性を担保している訳ではありません。このような状況下で「日本薬局方○○○○○○」として販売されている生薬の品質は玉石混淆になり、2014年は生薬品質の鑑別が最も重要な年になります。

終わりに

 2013年は中国産生薬の値上りや供給不安などの外因と、日本国内における耕作放置農地の増大、米作転換作物などによる薬用植物の生産拡大の機運が高まり、自治体、JA、農業法人、個人農家、土木建設業などが生薬栽培事業に手を挙げています。日本の漢方を継続的な発展をさせる為にも国内栽培は重要な課題ではありますが、安全・優良品質・高価格の国産生薬か、低品質・残留農薬危惧・低価格の中国産生薬かを選択するのは病院・薬局などの医療機 関です。
 2014年は生薬の品質評価の鑑別力を培い、使用生薬の品質を確保する事が重要な年になります。国産生薬の品質を評価し、多くの国産生薬を使用する事も安定供給の確保、日本漢方の継続的な発展に繋がる事と確信しております。

株式会社 栃本天海堂
姜 東孝