漢方・漢方薬の輸入、栽培、製造、販売までを一貫して行うメーカーです。

株式会社 栃本天海堂

2015年 生薬市場の展望 ―見直される生薬の国内生産―

はじめに

 中国産生薬は2010年以降の高値が2014年度も継続され、高値が続いております。
中国の経済と所得水準を見る限り、過去の水準の低価格に戻ることは考え難い現状で有ります。また、外国為替は2014年1月は’@\103.-/$であったのが、12月には’@¥120.-/$まで円安が進みました。これにより、日本国内の生薬流通価格は更なる高騰を余儀なくされています。製薬会社など各ユーザーは購入する商品規格を引き下げて原価低減を図っていますが効果は限定的であります。

生薬資源の市場現状

*薬用人参
 薬用人参は医療用医薬品、OTC医薬品、健康食品など使用用途は多岐にわたっており、値上がった多くの生薬の中でも、値上がり幅が大きく、影響が大きい生薬です。明治時代から輸出生薬として国内で生産されてきた薬用 人参ですが、現在では価格面で中国産に100%近く依存しております。
この人参価格の急騰は漢方エキス製剤も含め、生薬業界も採算性を大幅に悪化させています。
 2014年後半の輸入価格は約US$120.-/kgになっており、為替を’@¥120.-/$で計算すると輸入原料原価は単純で’@\16,000.-/kgを超えます。
人参の薬価は’@\17,640.-/kgですので、薬価販売が不可能になります。輸入原価の’@\16,000.-/kgは国内の生産コストと差が無く、国内生産も十分価格的に可能になりますが、国内の生産地は信州(長野県)と会津(福島県) が僅かに残るだけで、早急な国内の増産体制を取ることは出来ません。

*甘 草
 甘草の輸出国であった中国が、資源の枯渇と国内消費量の増大で国内生産だけでは不足し、近年、中央アジアの甘草(G.glabra)の輸入が増加してきています。日本薬局方には甘草の基原植物として、G.uralensisとG.glabraが収載されていますが、日本市場では漢方薬原料としてG.uralensisが主に使用されており、G.glabraは主にグリチルリチン製剤や甘味料の原料として多く用いられています。G. uralensisの甘草は、現在中国のみに供給を依存し ており、安定供給が懸念されています。
中国国内ではG.uralensisの甘草栽培は進んではいますが、局方規格のグリチルリチン2.5%以上に適合する事が今のところ難しく、安定した供給には至っていません。

生薬の国内生産

 過去に例を見ないほど、各分野で日本国内での生薬栽培の期待が高まっています。耕作放置農地の生薬栽培活用が模索され、また米作転作農産物を模索していた地方自治体、JA農協などは国内栽培に大きな期待を寄せております。農林水産省は「薬用植物等地域特産作物産地確立支援事業」として国庫予算を組んで中山間部の活性化、産地化に薬用植物の栽培を推奨しています。また厚生労働省も農林水産省と協議しながら、生薬原料の安定供給を掲げ、生薬の国内栽培拡大にご協力をいただき、栽培技術者の不足、種苗の不足など国産生薬の栽培拡大には問題が多く難しいのが現状でありますが、確実に国内栽培は拡大すると考えられます。

終わりに

 国内での生薬栽培には土木、建設業などの異業種を含め、自治体、JA農協、農業法人などが興味を示していますが、日本産と中国産との価格差は未だ大きく、販路の拡大には繋がっていません。「作り手は多いが購入先が少ない」のが現在の国内栽培の現状と云えます。生薬の大きな消費市場である保険医療で生薬薬価が低く、国産の生薬が価格的に使えない状態で国内生産を増やす事は難しいと考えられますが、日本の漢方を継続発展させる為にも国内栽培は重要な課題であります。

株式会社 栃本天海堂
姜 東孝