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株式会社 栃本天海堂

2016年 生薬市場の展望 ―進まない生薬の国内生産―

はじめに

 環太平洋パートナーシップ(TPP) 協定が大筋合意され、国内の農業関係者はより一層薬用植物栽培に関心を高めている。また、農林水産省の予算概算要求で平成26 年度から引き続き平成28 年度も「薬用作物等地域特産作物産地確立支援事業」で5 億円が盛り込まれている。
 近年、医療用漢方製剤等の生産高は高い伸びを示してきたのに何故、国内の漢方薬用作物(生薬)の生産農家が減少し、生産量が減少してきたのか? 答えは単純明快で生産労働(生産コスト)に比べて流通価格が低いことに起因している。医療用生薬・医療用漢方製剤は薬価で販売価格を抑えられる事で原料生薬のコスト低減を強いられ、原料生薬のコスト低減は、国産生薬から安価な輸入生薬或いは低級グレードの原料使用へと変更を余儀なくされる。

 この様が状況下において、薬用作物等地域特産作物産地確立支援事業などで生産補助が行なわれても生薬の大きな消費窓口である医療用生薬・医療用漢方製剤に国産生薬の出口は無いであろう。

輸入生薬の状況

 2013 年から急激に値上がりした輸入生薬の価格は2015 年も高値が維持されてきたが、秋期の新産期を終え、上り過ぎた品目は一部是正されてきている。しかし、2010 年当時の価格水準に戻る事は考えられない。

 最も値上がり幅が大きかった中国産人参に関しても、2014 年10 月から2015 年10 月までの日本税関の輸入申告価格は@\13,000.- 前後で推移してきた。しかし、2015 年度産が出回り始めてからは、中国市場での旧在庫が予想以上に多い事などの理由で価格は大きく下落傾向に成ってきており、2016 年の輸入単価は大きく下がる見込みである。
 2015 年の生薬市場全般は高値水準の継続で、一部生薬の高価格は是正されるが、中国農村での高齢化、人材不足等の生産環境は変わらず、先行きの不透明感は拭えない状況である。

終わりに

 日本の生薬生産は生産者の減少などで生産基盤は崩壊し、日本市場は中国の生薬市場に完全に左右されているため、日本側でコントロールする事は全く出来ない現状である。長年、中国産生薬の流通価によって薬価が年々引き下げられ、国内農家は生産コスト割れで生産意欲を消失して、生産基盤が崩壊した過去の状況を理解しなければならない。
 この生薬生産の基盤を回復するには薬価で国産生薬の出口を塞いだ現状を改善しなければ、幾ら生産補助を行っても「作り手は多いが使い手が少ない」現状は変わらないであろう。
しかし、厚労省の社会保障費の軽減政策において国内生薬生産の為に無暗に薬価を上げる事は不可能である。
 この解決策で考えられるのは、同一生薬でも輸入生薬と別個に国産生薬の薬価を創設する方法である。国が生薬の国内生産を本当に考えるのであれば、生産奨励で国産薬価を創設して出口を空けるべきである。今は、農林水産省は転換作物として薬用作物(生薬)を作れとアクセルを踏むが、厚生労働省は薬価で安価な輸入生薬を使えとブレーキを踏んでいる状況である。
 TPP 協定の合意以降、色々と農業政策が検討されている今こそ、国内の生薬生産を見捨てた農政から国産生薬生産を保護する農政に転換する事を望みたい。

株式会社 栃本天海堂
姜 東孝