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株式会社 栃本天海堂

2017年 生薬市場の展望 ―中国農村部の変化―

はじめに

 近年、中国の社会構成人口、経済格差状況が大きく変わってきている。下図は中国の人口推移を示しているが、2010年を境に農村部の人口と都市部の人口が逆転している。
 2015 年には都市部人口は77,116 万人、農村部人口は60,346 万人となり、農村部の人口減少が著明になっている。
2005 年と比較して農村部の人口は 1 億 4 千万人も減少しており、農民工と云われる出稼ぎ農民の増加が都市部の人口を押し上げ、結果的に農村部での人口減少し、加えて高齢化、過疎化が大きく進んでいる。経済格差に関しては都市部と農村部の所得格差も年々拡大してきている。下図が示すように都市部、農村部とも所得は年平均 11%の水準で上昇し、2015 年は 1999 年と比較して所得は各々 5 倍にはなっているが、都市部と農村部の所得差は 1999 年の 3,600 元から、2015 年には 19,700 元と格差は広がる一方である。

 中国政府はこの格差を解消する事を目指して「新都市化」政策を2010 年頃から進めている。
 これは東部沿岸部に集中している経済発展を内陸部に広げていく政策で「城鎮化」と呼ばれ、大きな特徴は地方の中小都市の開発を進め農民工に都市戸籍を与え、都市戸籍と同じ教育機会や社会保障などを提供し、沿岸部の大都市への人口集中の減少と、所得格差の解消を目指すことである。

 また、下図の産業別人口比率推移をみると一次産業人口(農業従事など)が2014 年には全人口の29.5%まで減少している。
一次産業人口の減少は城鎮化政策により、加速的に拡大すると予想され、生薬生産に大きく影響すると考えられる。農業従事者の減少が進むと生産性と経済性が重視され、採算性の悪い生薬の生産は減少し価格上昇につながる。また、農村部の城鎮化により農村部の所得は増大するが、それにともない生薬価格をも上昇させる。

生薬市場の状況

 2013 年から急激に値上がりした輸入生薬の価格は2015 年も高値が維持されてきたが、2016 年には上がり過ぎた品目が是正され、全体的には値下がり相場になり適正価格に是正されてきたといえる。
 下図は、最も値上がり幅が大きかった中国産薬用人参の2015 年1 月から2016 年11 月までの、日本税関の輸入申告価格推移である。

 2015 年9 月の生産期から生産量の増大で価格は下落傾向に推移し、2016 年は2015 年の50%近くまで値下がりしている。図表では2016 年の1 月、4 月、10 月、11 月の平均単価が高く表示されているが、これは横浜税関で相場より高い価格で輸入申告された影響で平均単価が高くなっている。これは輸入申告会社の高値の契約残かあるいは契約上の理由での通関申告価格と思われる。
 2016 年後半に値上がりした品目は桂皮、大茴香、田三七、当帰、川芎、麦門冬、黄連、白芷、呉茱萸、五味子、白朮、蒼朮、薄荷、党参、黄芩、黄柏、葛根、連翹などであるが、多くは天候などによる減産が原因である。例えば呉茱萸などは市況が悪い事で農民の生産意欲が減少して価格が上昇、麦門冬は成長促進剤の使用制限等で生産が減少して値上がったようである。
 2017 年の生薬市場は、現在の価格水準が底値の品目が多く、買占めなど少しの要因で値上がりを示すと考えられる。特に気になる品目は牡丹皮で、栽培年数と芯抜き作業が手作業である事を考えれば、現状の相場は安過ぎる感がある。

終わりに

 中国農村部は高齢化、過疎化が進み生薬生産の従事者は年々減少する事を考えると家内工業的な零細農家の生薬生産は減少し、大中規模農地での機械化農業が主体となると思われる。機械化農業には設備投資が必要で市場規模と収益性が特に重視されるであろう。その為、需要量の少ない生薬は呉茱萸の様に大幅な値上がりの可能性が高いと思われる。また、中国政府の政策上、今後とも農村部の人件費は値上がりを続けることが予想され、その影響で生薬 価格の上昇も懸念される。中国国内の生薬需要も年々拡大しており、現状の様に100%近く中国に供給を依存する事は、日本の漢方業界にとってはリスクが大きく、国内生産を拡大する必要性を強く感じる。