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株式会社 栃本天海堂

紅花のふるさとを訪ねて

紅花

ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
からくれなゐに水くくるとは

最後に百人一首に興じたのは一体いつのことであろう。ひんやりとした体育館でカイロを手に身を寄せ合い、高校生活1年目も終わりに近づいたあの初春の頃であろうか。唐紅(からくれない)とも呼ばれる紅花の産地へと向かう飛行機がふわりと浮かんだあの瞬間、在原業平が詠んだこの和歌が記憶をかすめた。特にお気に入りの和歌というわけではなかったのにもかかわらず…。

紅花の産地である新疆ウイグル自治区へは関西国際空港から杭州、敦煌で2度飛行機を乗り継ぐ。くれなゐ色にくくられた紅花の絨毯を空から臨むことができると期待に胸をふくらませていたものの、新疆へ近づくにつれ、眼下に広がる風景は緑色からくすんだ色に変わっていく。そこに見えるはただ風雨に浸食され、干からびた大地のみ。

1日がかりで中国大陸を横断し、ウルムチに降り立った時には既に21時をまわっていた。にもかかわらず、外はまだまだ明るい。空港はこぢんまりとした佇まいで、外は夕食時であったからか、食欲をそそられる白米の香りが立ち込めていた。

干からびた大地

干からびた大地

ウルムチ空港

ウルムチ空港

歓迎の宴

歓迎の宴


ホテルにチェックインするとすぐに歓待を受ける。円卓には食べきれないほどの料理が並び、思わず迷い箸で顰蹙を買うのでないだろうかなどと思ったりしたが、中国ではそのようなマナーなど関係なかったのであろうか。宴もたけなわになって登場したのが、あの肉まんらしき料理。ちょうど、段ボール肉まんで大騒ぎになった直後であり、割って中に怪しい物体が混入していないか確認したが、段ボール様のものはなく、なかなかの美味であった。

翌日、いよいよ紅花の産地へと向かう。ウルムチから東へ300キロ。走れども走れども彩りのない地平線や稜線が続くばかりで何の浪漫もない。3時間経ってようやく現われた紅花の畑。近くに生えていたヒマワリほどの華やかさはないが、かといって源氏物語に登場する末摘花のように醜いわけでもない。しかし、いみじくも同じ名を持つためか、紅花の性質は末摘花のごとく頑迷で、乾燥した大地にしっかと根を張っている。

紅花畑に咲く一輪のヒマワリ

紅花畑に咲く一輪のヒマワリ

力強く咲く灌漑畑の紅花

力強く咲く
灌漑畑の紅花

耐えて育つ末摘花

耐えて育つ末摘花


灌漑設備の整った畑の紅花はしっかりと水を吸い上げ、背も高く、1つの株にいくつもの花を咲かせていた。そこで収穫していたのは中学生らしきアルバイトの女の子たちで、真っ黒に焼けている。3本の指で花をむしり取るため、彼女らの指先は頬と同様、紅色に染まっている。ただ、収穫に最適な花の色は紅色ではなく、ちょうどオレンジ色になった頃である。真似をして5分程摘んでみると意外と楽しく、あっという間に袋がいっぱいになってしまった。

紅花を摘む少女と農場主

紅花を摘む少女と農場主

取材する地元ジャーナリスト

取材する地元ジャーナリスト


1990年代半ばまで、油用種子の収量が良いトゲのある紅花の栽培が主流であったが、これを大量に使用していた企業が倒産。その後、改良が施され、今ではトゲのない紅花が栽培される。従って、収穫はトゲの柔らかい早朝に限られることがなく、紅花を収穫している農家やアルバイトの娘たちは小麦色どころかこんがりと日焼けしているのである。

「中国産」というとその安全性が懸念されるところであるが、紅花の栽培には農薬は使用されることはない。これは紅花が末摘花のように、どのような境遇であっても耐え忍ぶ性質を持っているからである。畑に灌漑設備が整っているに越したことはないが、そのような設備などがなくても変な虫を近づけなさそうな花を咲かせる。もちろん、豊かな環境で育った紅花に比べ、草丈は低く、1株に付ける花の数は少ないが…。
恵まれた環境に育つ紅花の周辺には小麦や綿花、トウモロコシなどが植えられており、農薬が使用されている。ドリフト汚染が気になるところであるが、実際の農薬一斉分析の結果、ポジティブリスト制度の基準値を超えて農薬が検出されることはほとんどない。一方、苛酷な環境で育つ紅花の周辺には飼料用の牧草が生えているだけで、前者よりもドリフト汚染の危険性は低い。

収穫した紅花を乾燥させる様子

収穫した紅花を乾燥させる様子

紅花は農薬のリスクがそれほど高くはないものの、色を鮮やかに見せるため、人工着色料や色付きのデンプンを意図的に混入させることも往々にしてあるようである。従って、貨物を買い付けるときには、その様なものをつかまされぬよう、十分確認の上、契約する必要があるようだ。


いくつかの畑を巡った後、パオで遅めのランチ・タイム。地元の農業局の役人や、ウイグル族の有力者、そしてジャーナリストまで登場。文字通り、どんちゃん騒ぎが始まる。円卓に登場したのは羊。中央には安らかに眠る羊の頭部が置かれ、串焼きやスープなど、羊肉を中心とした料理が並ぶ。こってりとした料理が多いものの、食が進む。この時、後に苦悶に満ちた日々を送ることになるとは知る由もなかった。

パオでのランチ・タイム

パオでのランチ・タイム

テーブルの上で安らかに眠る羊

テーブルの上で安らかに眠る羊

ウイグル族の有力者(中央)と紅花の集荷業者

ウイグル族の有力者(中央)と
紅花の集荷業者