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株式会社 栃本天海堂

2007年 中国生薬市場の展望

はじめに

 特殊農産物である生薬の生産はその生産国の農業事情、農業政策、経済状況に大きく左右されます。生薬の主生産国である中国は世界に類を見ない速度で高度経済成長を遂げており、その背景で生薬も含めた農業生産に対する問題点が多く浮上し、生薬の安定供給に大きな不安要素となっております。

問題点:
I.水不足と土壌汚染
 経済発展による工業用水の増加、所得水準の向上による生活用水の増加、環境破壊による水資源の減少などによる、中国の水不足は農業生産、経済発展の大きな障害となっている。
また、工業排水などによる水質汚染は深刻で中国環境科学研究院によると、中国北部の地下水から各種の有害物質が基準を超える濃度で検出されたとの報告もある。長江(揚子江)も、川沿いに立ち並ぶ重化学工場からの排水が川を汚染し、長江水利委員会の調査では最近十年間、長江の水質は悪化の一途をたどっているという。

 生活用水の消費量についても中国の南北で大きな較差がある。さらに、北京の消費量の増大に見られるように、生活水準の向上とともに、今後の拡大が予想される。

 生薬生産においては水不足による生産減少と有害物質の汚染が懸念される。

II.農業作付面積の減少・農地の疲弊
 中国の農産物の平均輸入関税は世界貿易機関(WTO)加盟時より大幅に下がり、中国における穀物、穀類 の作付け面積が急速な減少を見せている。
 農産物の市場開放による作付け面積の減少は農業従事者の減少を意味し、耕地が工業用地など都市的用途に転換されていると考えられる。作物農産物の構成の変化を見ると、野菜や綿花などの作付け面積が増加しており、これは、経済発展の中で、換金作物への生産転換の結果と考えられる。
 野菜などの大量生産は農地を疲弊させ、耕地の荒廃、砂漠化に拍車をかける結果となっている。耕地の砂漠化の現象は自然破壊にも起因し、社会全体の大きな問題となっている。

 農地の減少は間作として生産される生薬の減産となり、農地の疲弊は生産量の減少に繋がる。

III.無計画な採取・乱獲がもたらす漢方薬資源の激減
 生活水準の向上にともない中国国内においても漢方薬の二一ズが持続的に高まっており、漢方薬原料の開発利用も空前の高まりを見せている。過去10年近くの間、中国の天然植物薬材の二一ズは3倍に増え、年間の需要は6,000万kgに達した。そのうち輸出は3,000万kgに上る。こうした漢方資源の大量使用により、薬用植物の植生が広範囲にわたり荒廃し、野生資源が年々減少している。
 象徴的な生薬として取り上げられる甘草は、一般に広く使用されている生薬で、過度に採取されているため数量が激減し、資源量は1950年代の200万トン余りから現在の35万トン足らずに減少し、絶滅の可能性も出ている。その為輸出規制が設けられており、毎年輸出数量の入札が行なわれている。
2006年の入札基準も決定され輸出最低価格が引上げられている。
 植物原料にもまだ人工栽培の方法が確立されていない品種が多いため、無制限に拡大する市場の二一ズにより、こうした品種が消滅するおそれがあることが懸念されている。

 漢方薬の持続的な発展の実現には資源保護の強化と野生品種の栽培化が不可欠である。

IV.中国最低賃金引き上げ
 中国で今年、労働者の最低賃金が最大で6割強引き上げる政策が打ち出された。所得格差拡大の是正へ向けた政府の措置で、最低賃金は基本的に地方政府が経済発展状況に応じて決めるが、23の省、自治区などで引き上げられた。
 急速な成長を遂げた中国だが、豊かな人が増える一方、収入が1日1㌦未満の貧困者は一億人近く存在し、最低賃金引上げは貧困者の生活水準の改善につながる。
 この最低賃金の引上げは生薬収穫、その後の加工調整費用のコストUPに繋がり、輸出生薬価格にも大きな影響を与えることが予想される。

まとめ

 2007年は生薬市場の長年にわたる廉価安定情況の終焉であり、上記の諸般の情況で供給不安定・価格上昇の始まりと位置づけられます。
 長年にわたり野生大黄は過剰採集と供給過多で市場価格は廉価安定であったが資源と市場在庫の減少で値上りが予想される情況です。また、日本市場で好まれる東北甘草は資源の枯渇で年々品質が低下し、数量確保も難しい現状で推移しています。それ以外にも五味子は栽培化の遅れで栽培面積は急激に増加していますが、収穫期を迎えていない事で2006年産は野生品の生産減から価格は高騰しています。長年、生薬薬価は値下がり続けましたが、現在の薬価では対応できない品目も多々出てくる事が予想され、市場関係者の対応が非常に難しくなる年になるのではないでしょうか。

 

 その他、2007年に値上りが予想される品目を下記に列記いたします。
  連翹、唐白朮、唐厚朴、沢瀉、延胡索、大棗、山茱萸、牡丹皮、人参(紅参)、当帰、黄精など。