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株式会社 栃本天海堂

2013年 生薬市場の展望 ―生薬価格の上昇と品質格差の拡大―

はじめに

 2012年の流通生薬は、価格面では2011年の値上りを引き継ぎ高値安定で、一部生薬では若干の是正が行われたが大きな値下りは無く、中国市場では堅調な状況が続いている。世界経済が低迷する中でも、中国経済は実質GDP成長率が2012年第二四半期は7.6%と低水準ではあるが、ある程度堅調に推移しており、物価や人件費の高騰による生薬相場の高値安定は続くと予想される。
 また、2012年末にはブラジル産ウシのBSE発生の報道、黒烏龍茶の残留農薬による商品回収などの2013年の生薬市場にも影響するであろう問題が噴出している。

中国生薬の価格上昇

 中国経済の発展は、人件費の高騰と都市部と農村部の人口比率に大きな変化をもたらした。
 1978年当時の国民所得は都市部で343元、農村部では134元、2000年には6,280元、2,253元と上昇し、2010年では19,019元、5,919元と急激な伸びとなっている。2004年以降、都市および農村部とも毎年10%以上の所得上昇が続いている。
 また、人口推移においては1978年当時の都市部と農村部の比率は17.9%:82.1%と農村部に集中していたが、解放改革および社会主義市場経済の導入で都市部での雇用需要が拡大し、2010年には49.9%:50.1%と農村部の人口は激減した。

 これらの状況は1960年代の日本の高度経済成長期の「集団就職」に代表される日本の農村部から都市部への人口移動と同じ現象である。この当時の日本の農村部は主な働き手である男性が出稼ぎや勤めに出て、 他の家族により行われる「三ちゃん農業」《じいちゃん・ばあちゃん・かあちゃん》で、現在の中国農村部も同様の状況で高齢化が進んでいる。
 中国政府は農村部と都市部の生活水準格差、所得格差の是正が政権安定の基本と考えており、農村の都市化(城市化)を基本方針として進めている。この方針は生産性の悪い農産物、利潤の低い農産物を排除し、生薬の安定生産を困難にすると大いに予測できる。また生活水準および所得水準の向上に伴い、中国産生薬の価格も上昇する事も予測される。さらに、農村部の人口減少と高齢化は野生種生薬の減産にも繋がり、栽培化が加速されると考えられる。よって生薬の安定生産には、生産者にとっての適正価格の維持が不可欠である。

品質格差の拡大

 中国農村部の都市化(城市化)による農産物の生産性向上および採算性の向上は、流通生薬の品質にも大きな影響を与える。主に病虫害のリスク・採算性などから、多年生生薬の栽培年数の短縮による品質低下、生産性向上による農薬多用による安全性の危惧などである。
 生薬の品質評価は現在、化学的検査の指標成分等で行われており、栽培年数、外部形態、内部形態などは重要視されていない。生薬は多成分によって構成される単一薬品であり、現在の指標成分などによる化学検査だけで、同等性を評価することの正当性には疑問が残る。
陝西省、山西省などの黄土高原で5~6年かけて栽培された黄耆と、甘粛省などにおいて2年で畑栽培される黄耆は化学的品質評価では大きな差異は無いが、流通価格や外観、味には大きな差異がある。これらは日本市場で同じ「日本薬局方オウギ」として流通している。
 また、残留農薬に関しては、食品関係ではポジティブリスト制度で厳しく規制されているが、医薬品としての生薬は日本薬局方でDDTとBHCの規制があるだけである。その為、色々な残留農薬が管理された生薬と日本薬局方の規制を主に管理した生薬が市場に混在している。
 この様に色々な面での品質格差が存在し、価格重視か、品質重視か、安全性重視か等により流通生薬の品質格差が日本市場では拡大することが予想される。

ブラジル産ウシのBSE発生による牛黄市場の今後

 2012年12月に報道されたブラジル産ウシのBSE発生は牛黄市場に大きな波紋を引き起こしている。牛黄の2011年の輸入統計では1,215kg輸入され、その78%がブラジルからである。

(図3)この報道により、現時点で厚生労働省は、流通する牛黄製剤以外の新規のブラジル産ウシ等由来原材料を使用する牛黄製剤等の製造及び輸入を見合わせるよう規制している。
 米国でBSEが発生した時は、米国産牛黄の使用にあたっては多くの安全性担保の書類が要求され、その書類の手配が非常に困難で、日本市場から現実的に排除された経緯がある。米国と同じ様な規制がなされた場合は牛黄の供給は激減し、ブラジル産以外の牛黄の確保は非常に困難になり、価格の高騰が予想される。

終わりに

 現在の生薬薬価が維持された場合、中国産生薬の値上りで供給生薬の品質低下は避けられない現状である。医療用生薬の薬価販売が維持できずに実勢価格での販売に変更している供給会社もある現況下では、生薬の品質確保、安定供給を確保するには生薬薬価の適正価格への是正は急務であろう。新薬の開発と違い、漢方薬は臨床経験によって新しい漢方処方が考案され進歩する医薬品であり、その進歩には臨床現場での漢方湯液は不可欠であり、その為 にも生薬薬価販売が重要であると考える。
 また、現在の中国現状を考えると生薬供給の過多な中国依存は、危機管理面で大きな問題と捉えるべきであり、国内生産の確立、増大が必要である。生薬の国内生産は、耕作放置農地の歯止めに幾ばくかの貢献をすると考える。

株式会社 栃本天海堂
姜 東孝